某社会福祉法人事件
第1 事件の概要
1.当事者
当方:20代の男性、雇用形態は正規職員(無期雇用)
相手方:障害者の就労継続支援事業等を業とする社会福祉法人
2.勤務態様
障害者支援施設における支援員として、利用者の介助等の支援業務(宿泊介助等も含む)、各種書類作成に従事し、各種会議にも出席していた。
3.紛争の内容(法的な論点等)
未払時間外労働手当等を求めて労働審判を申し立てた。労働者は、未払時間外労働手当等を支払わせるとともに、かつての同僚等のことを思い、施設の労働環境の改善を図りたいという思いから申立に至っている。
労働者は2のような労務に従事していたが、利用者が来所してからは支援業務以外を行うことは困難であり、早朝の出勤(早出残業)、深夜の帰宅を余儀なくされていた。また、利用者の介助の必要のため、休憩時間も取ることができなかった。相手方は、労働時間の実態を反映した記録をとっておらず、時間外労働手当等も殆どが未払であった。
疑問に感じ始めた労働者は、日記や退社前の電話、出社直前に買い物をしたレシート等で労働時間を記録し、それらの記録によって未払時間外労働手当等を請求した(記録がない期間〔請求期間の凡そ2分の1〕については推定して計算した。)。
第2 結果
記録のある部分については全額、記録がなく推定に基づく部分も6割強の未払時間外労働手当等を支払う旨の調停が成立した。
また、相手方は、「今後労働者の実労働時間を適切に把握すること」、「労働者が労働から解放され、自由に利用できる時間を確保する」ことを約束する調停条項に入れることになった。
第3 担当弁護士コメント
使用者がタイムカード等によって労働者の実労働時間を正確に把握していない場合でも、労働者が独自に実労働時間を客観的に記録すれば、未払時間外労働手当等を請求する際の大きな武器となる。この点は、多くの労働者に広めるべきことである。
また、時間外労働手当等の未払によって長時間労働が常態化すれば、それは労働者の生命・身体に直結する問題である(時間外労働手当等の未払は決してお金だけの問題ではない。)。その点を改めさせるべく、未払時間外労働手当を支払わせることは重要である。さらに、本件では、使用者に労働時間の適切把握、休憩時間の確保等を調停において約束させたことも成果である。時間外労働手当等の請求は、当該使用者において就労中の全ての労働者の労働時間規制にも寄与することができることを証明した。