ブラックバイトを,辞めます【コンビニ編】
私は大学1年生。とあるコンビニでアルバイトをしている。
人手不足が理由で週6日シフトに入れられている。。。
授業を理由にシフトに入れないといっても無理やりシフトに入れられてしまう。
テストがあるからと言っても聞き入れられない。
おかげで今年は留年してしまいそうだ。。。
しかもこのバイト,全然残業代払わない。
売上げノルマを達成しないと自腹で商品購入させられるし。
現金計算が合わないと給料から天引きするし。。
学費を稼ぐためにアルバイトを始めたのにこれじゃあ本末転倒だ。
今日は勇気をもって店長にバイトを辞めることを伝えに行く。
大丈夫。事前に弁護士にも相談して相当法律知識入れたから,何言われても絶対論破してやるんだからね!
バ「店長!」
店「あぁ?」
バ(くっ。。。このグラサンマリモ野郎。いきなりメンチ切りやがって。でも,この顔面力に私は屈しない!)
「大事な話があります!」
店「ふむふむ。全身を耳にして聞いてやろう。申してみよ。」
バ(く。。。。このどっかで見たようなポーズ。。。完全におちょくってる。。)
「私,バイト辞めます!」
店「YA・ME・MA・SU?ちょっと何言ってるか全然分かんない。」
バ「シフト入れられすぎて大学にまともに通えません。もう無理です。」
店「お前なあ,この店が慢性的人員不足なのは知ってるだろ?
お前が辞めたら他の人にどれだけ迷惑かかるかわかってんのか?
こんな状態でやめさせるわけねえだろ!」
バ「そんな言い分通りませんよ。法律上は原則として2週間前までに通知すれば辞められるんです(※1)。
誰もそれを止められません。これは憲法でも保障されている権利です。
だいたい,人手不足なのは人件費ケチって新しいバイト雇わないからですよね。
もうもたないって私何度も言ってるじゃないですか!」
店「経費をギリギリまで節約して利益を出すのがこの世界なんだよ。」
バ「節約?残業代を払わないのも節約ですか?これ,違法ですよ!」
店「残業?何のことかな?証拠はあるのかね?」
バ「そうくると思って私の出退勤時間全部メモに残しておいたんですよ!
これ,裁判でも立派な証拠になるんですからね。全部払ってください!」
バ「それから,今まで私のミスを理由に天引きされていた分も請求します。」
店「何言ってんだこの野郎。自分のミスした分を天引きされるなんて当たり前じゃねえか。」
バ「あのね,労働者の同意なく天引きするのは違法なんですよ!。
だいたい,バイトがミスって店に損害与えたとしてもそれを全部バイトに請求できると思っているんですか。
わざと店に損害を与えたような場合でもない限り,損害賠償責任なんて認められませんよ!(※2)
アルバイトを働かせて利益を上げといて,損害は全部アルバイトに負わせるなんて不公平でしょう!
あとね,これまでノルマ不達成とか言って自腹購入させられてた分についても請求させてもらいます。
ちゃんと領収書全部持ってますからね。バイトには自腹購入義務なんてありません!」
店「ぎゃあぎゃあうるせえなあもう。お前が辞めたらこの店回らなくだろうが。そしたら店に損害出るだろ。
それお前に全部請求してやるからな。」
バ「認められるわけないでしょそんなもん。
1人バイトが辞めたぐらいでどんな損害が出るんですか?どうやってそれを立証するんですか?
代わりに人を雇えばいいだけでしょ?辞めたバイトに損害賠償請求して認められた裁判例でもあるんですか?
だいたい,そんな訴訟を起こす余裕有りますか?バイト1人にそんなに時間とお金をかけてペイするの?」」
店「知らん!くっそ~もう頭に来たぞ!」
バ「で?」
店「・・・・・」
バ「その不自然なマリモ頭がズラだってことぐらい皆知ってますよ。全然オシャレじゃないし。ていうか,いきなりズラをカミングアウトしてこの状況どうにかなると思ってんの。意味分かんない。」
店「う~う~う~。。。。。」
店「あんまりだああああああ!」
バ「泣くのかよ!」
店「俺だってなあ!もっとバイト雇って余裕持ってシフト回したいよ!でも本部の圧力のせいで経費を削らざるを得ないんだよ!ここんとずーっと休んでないし!だからアフロなんだよ!」
バ「アフロは関係ねえよ!」
バ「店長,だったらフランチャイズの店長で団結して本部に団体交渉して待遇改善を要求すればいいんじゃないですか。他のコンビニでそういうことやっているところもありますよ」
店「へ?そんなのできるの?」
バ「できます。フランチャイズオーナーは労働組合法上の労働者ですから(※3)。店長も犠牲者なんですよ。本当に悪いのはもっと上の方にいて一方的に下に負担を押しつけている経営者。いや,そういう経営者の存在を許してしまっているこの国の仕組みそのものかもしれない。」
店「良いこというじゃねえか。ところでお前何でそんなに法律詳しいんだ?」
バ「弁護士に相談したのと,あとは自分でもググりました。」
店「そうか,俺も法律のことちょっと勉強しようかな。」
バ「是非そうしてください。応援してますよ。それじゃ!」
そんなうまいこと論破できねえよと思った方は,下記の退職届の書式を使ってください。
【退職届書式】
これを郵送なり持参して置いておくなりすれば,雇用契約を解消できます。
労働者には「辞める権利」があります。
※1
アルバイトの場合,雇用契約書が取り交わされないケースもあります。そうなると,雇用期間を定めなかったことになりますので,法律的には無期雇用契約となります。そして,無期雇用契約の場合,解約の申し入れをしてから2週間で雇用契約は終了します。
これに対し,雇用契約書が取り交わされ,雇用期間が明示されている場合,有期雇用契約となります。有期雇用契約はその期間内は解除できないのが原則ですが,「やむを得ない事由」があれば解除できます。残業代を払わない等法律に違反している場合や,シフトを入れられすぎて学業と両立できない状態になっている場合は「やむを得ない事由」があると言うべきでしょう。この点は【塾講師編】でも触れています。
なお,1年を越える期間の有期雇用契約の場合,労働基準法137条により,最初の1年を経過すれば,以後はいつでも退職することができます。「やむを得ない事由」は必要ありません。
ただ,例外として,高度に専門的な知識を必要とするような業務に就いている労働者や,満60歳以上の労働者に対しては,この労働基準法137条は適用されません。しかし,若い方のアルバイトは高度な専門的知識を要するとは言えないでしょうから,この例外は無関係でしょう。
※2
従業員の損害賠償責任についての詳細な解説は当弁護団団長佐々木弁護士のブログに記載してあります。
※3
下記2つの労働委員会に対する不当労働行為救済申立事件において,コンビニ加盟店店長の労働者性が認められています。
■岡山県労働委員会平成平成26年3月20日救済命令(セブンイレブン・ジャパン事件)
【概要】
岡山県労働委員会は,セブンイレブン・ジャパンと加盟店契約を結んだオーナー達が労働組合法上の「労働者」に該当することを認めました。そして,セブンイレブン・ジャパンに対してオーナー達が作った労働組合との団体交渉に応じるよう命じました。
■東京都労働委員会平成27年4月16日付救済命令(ファミリーマート事件)
【概要】
東京都労働委員会は,ファミリーマートと加盟店契約を結んだオーナー達が労働組合法上の「労働者」に該当することを認めました。そして,ファミリーマートに対し,オーナー達が作った労働組合との団体交渉に応じるよう命じました。
■居酒屋編はこちら
■個別指導塾編はこちら
★出演
アルバイト役:弁護士 伊藤安奈
店長役:弁護士 明石順平