過労死、過労自殺

1 過労死・過労自殺とは

 長時間労働等の働きすぎや、仕事上の強いストレス等が原因で心や身体の健康を損なってしまい、ひどい場合は死に至る場合があります。
 そのうち、脳や心臓の病気(脳梗塞や脳出血、心筋梗塞や心停止など)などで亡くなることを過労死、うつ病などの精神障害にかかって自殺してしまうことを過労自殺と呼んでいます。

2 過労死や過労自殺は労災です

 過労死も過労自殺も、「仕事が原因で生じた」と認められる場合は労災となり、亡くなられた労働者のご家族には、労災保険による年金や一時金を受け取る権利があります。
 具体的な労災申請の方法は、労災問題に詳しい弁護士にご相談されるとよいでしょう。

3 労災保険はご家族の生活の支えとなります

 たとえば、奥様とお子さんが1人いる方の場合、生前の年収のおよそ55%が年金として支給されるほか、一時金として300万円や葬祭料(およそ給料の2か月分)が支給されます。奥様が働いていても支給を受けることができます。
 支給内容については、労基署などに置いてあるパンフレットや厚生労働省のホームページからも見ることができます。

4 どんな場合に労災認定されるか―過労死・過労自殺の労災認定基準―

 過労死や過労自殺が労災にあたるかどうかについて、労基署はそれぞれの「認定基準」にそって判断します。
 具体的には、
(1)過労死は「脳・心臓疾患の労災認定基準」によって、
(2)過労自殺は「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」によって
判断されます。
 具体的な内容は労基署や労働局においてあるパンフレットや厚生労働省のホームページなどで入手できます。
 以下では、大まかな内容についてご紹介します。

(1)過労死の認定基準
 過労死の労災認定基準での一番のポイントは「労働時間」です。これに労働環境や精神的ストレスなどが加味されて判断されます。
 脳や心臓や血管は、長時間労働による疲労の蓄積や強いストレスによってダメージを受けることが病気の原因になることが分かっています。
①過労死基準 -1ケ月100時間・6ヶ月平均80時間-
 以下の時間をおおむね超えるような時間外労働が認められると、労災認定の可能性が高くなります。
(ア)病気になる直前1ケ月に100時間
(イ)病気になる前2ケ月から6カ月の平均が80時間
 もっとも、「月80時間」と言われてもピンとこないかもしれませんので、具体的にどれくらい働くとそれに達するのか考えてみましょう。

 たとえば、午前9時~午後6時(昼食休憩1時間)が定時で土日が休日、という一般的な会社の場合、以下のような働き方をすると「月80時間」を超えてしまいます。
(A)平日午後10時まで残業し、土日は完全に休んだ。
(B)昼食休憩が実際には30分しか取れず、平日は午後9時まで残業し、土曜日だけ午前中3時間休日出勤した。
(C)平日は午後7時まで1時間だけ残業し、土日も休まず出勤して平日と同じように午前9時~午後6時まで働いた。

 逆に言えば、これを超える働き方を続けていると過労死する危険が高まるということが、医学的にも国の見解からも明らかになっていると言えます。

②直前の仕事や異常な出来事
 病気になる直前~前日に異常な出来事に巻き込まれたり、直前1週間に徹夜を含む深夜・長時間・連続勤務など特に厳しい仕事をしていた場合などについては、それだけで労災認定される可能性があります。

(2)過労自殺の認定基準
①自殺の原因は病気
 うつ病・適応障害・急性ストレス反応など「死にたい」と考えてしまう病気にかかった人が自殺してしまった場合、その死は、その病気が原因であると推定されます。そこで「仕事が原因で」その病気(精神障害)になったと認められれば、亡くなったこと自体も労災認定の対象となります。

②心理的負荷(ストレス)の原因となる「出来事」と長時間労働
 病気になる以前の6カ月間に、強いストレスと考えられる出来事があったかどうかがポイントです。どのような出来事がどのように評価されるかについては認定基準の中に表がありますので、参考にしてください。
 また、長時間労働があったこと自体もストレスであると認められていますし、6カ月間の中に月100時間程度の時間外労働がある場合は、総合的に見て強度のストレスがあったと認められやすくなります。
③診断書や通院歴がなくてもあきらめない
 診断書や通院歴がなくてもあきらめる必要はありません。生前の様子を明らかにすることで、病気になっていたことを証明することができます。

(3)その他の病気についてもあきらめない
 その他の病気であっても、その病気が過重労働など「仕事が原因で生じた」と認められれば、労災認定を受けることができます。
 具体的には、その病気と過重労働の関係を証明するための専門的な取り組みが必要になるので、労災問題に詳しい弁護士にご相談ください。

5 認定基準にあてはまらなくてもあきらめない

 仮に認定基準にきれいにあてはまらなくても、すぐにあきらめる必要はありません。認定基準にあてはまらなくても、労災認定される可能性があります。
 また、仮に労基署が労災認定をしなくても、不服申し立てをすることで逆転認定される可能性もあります。

6 会社に対する責任追及について

 過労死や過労自殺が発生してしまったことについて会社に落ち度(過失)があれば、会社に対して損害賠償請求を行うことができる場合があります。会社には、働く人達の生命や健康を危険から保護するよう配慮する義務(「安全配慮義務」といいます)があるからです。
 もっとも、どのようなことを根拠に賠償請求するか、労災請求との関係も含めどのようなタイミングで行うかなどについては、専門的な判断が必要となります。

7 労災問題に詳しい弁護士に、すぐに相談しましょう

 過労死や過労自殺での労災申請や会社への責任追及にあたっては、できる限り早く労災問題に詳しい弁護士にご相談することをお勧めします。
 たとえば労災申請にあたっては、労基署の調査に任せているだけでは事実が十分に明らかにならないことがあります。そこで、可能な限り請求人であるご家族からも資料を出していきたいところです。しかし、ご本人がどれだけ働いておられたか、どのような出来事があったのかについて、ご家族が的確に証明することは簡単ではありません。
 とりあえずは、
①ご家族の手元にあるもの(ご本人が遺されたメモ、携帯電話、パソコンの履歴など)
については、捨てたりデータを消したりせずに保管しておかれることをおすすめします。しかし、これだけでなく、
②会社に残っている様々な証拠(タイムカード、出退社記録、業務上の文書、日報など)や、
③会社の同僚の方などが知っている事実
などを的確に集めることができるかがとても大切です。
 証拠の収集や手続の進行タイミングについて、ご家族自身で考えられると間違う可能性があります。ご家族のこれからの生活がかかっていますので、できるだけ早く労災問題に詳しい弁護士にご相談いただくことが大切です。

(以上、ブラック企業被害対策弁護団著「働く人のためのブラック企業被害対策Q&A」174頁~181頁(古川拓弁護士執筆)より引用)