残業代不払い

1 ブラック企業が残業代不払いのために使う常套手段

 ブラック企業の常套手段として「残業代を支払わない決まりがある」とか「残業代を支払わない合意ができている」などといって残業代を支払わないというものがあります。

 しかし、会社との間に雇用関係がある以上、正社員、契約社員、パート社員、派遣社員等の区別とは無関係に、残業をした場合には割増賃金の支払義務を定めた労働基準法37条が適用されます。

 それにもかかわらず、ブラック企業は、様々な理屈をこねて残業代を支払わないようにします。しかし、それはすべて労働基準法違反の対応なので、残業代を支払わなくてよい理由にはなりません。

 

2 労働基準法に定められている割増賃金支払義務

 労働時間h原則として、1日8時間、1週40時間を超えてはならないと法律で定められています。休日も原則として、週1日以上確保しなければならないと定められています。

 そして、下記の場合には使用者は労働者に対して割増賃金を支払わなければなりません。

①労働者を1日8時間もしくは1周40時間(これに加え、大企業の場合には、1ヶ月60時間)を超えて働かせた場合(時間外労働)

②労働者を休日に働かせた場合(休日労働)

③深夜(午後10時~午前5時)に労働者を働かせた場合(深夜労働)

 

 重要なことは、この割増賃金の支払義務は、残業代を支払わないという契約になっていたとしても、また、入社当時から納得して働いていたという事情があったとしても、消えないということです。

 なぜなら、労働基準法という法律は、日本での最低の労働条件を定めていて、これを下回り労働契約は全て無効とされ、労働基準法どおりの内容がそのまま雇用契約の内容になるからです。これを労働基準法の強行法規性といって、横暴な使用者から労働者を保護する重要な役割を担っています。

 ですから、先ほど述べたとおり、残業代を支払わない決まりや合意があったとしても、労働基準法に基づいて残業代の支払を請求できるのです。

 

3 どれくらい残業代を請求できるのか

 では、どれくらいの割増賃金の支払を求めることができるのでしょうか。労働基準法で定められている割増賃金の割増率は以下のとおりとなっています。

(1)時間外労働

 通常の賃金の25%以上の割増賃金

※大企業の場合、1ヶ月60時間を超える時間外労働については50%以上の割増

(2)休日労働

 通常の賃金の35%以上の割増

(3)深夜労働

 通常の賃金の25%以上の割増

 

ここで、「通常の賃金」というのは、通常の労働時間に対する賃金の1時間あたりの単価のことをいいます。

 

たとえば、1ケ月の賃金が24万円で、通常の労働時間が160時間の場合、「通常の賃金」は、24万円÷160時間=1500円/時ということになります。

 

そうすると、1時間あたりの割増賃金は次の通りとなります。

(1)時間外労働の場合

1500円×1.25=1875円/時

(2)休日労働の場合

1500円×1.35=2025円/時

(3)深夜労働の場合

1500円×1.25=1875円/時

 

 そして、時間外労働と休日労働が深夜に及んだときは、合計した割増率となります。つまり、時間外労働が深夜に及ぶと50%以上の割増、休日労働が深夜に及ぶと60%以上の割増になります。具体的には下記のとおりです。

 

(1)時間外+深夜労働

1500円×1.5=2250円/時

(2)休日+深夜労働

1500円×1.6=2400円/時

 

 残業代の計算の基礎となる労働時間とは、使用者の指揮命令を受け、労働力を提供した時間をいうので、実際に作業を行っている時間のみならず、作業の準備や後処理の時間、待機時間、手待時間も労働時間に含まれます。

 

4 いつまでの残業代を請求できるか

 残業代の請求は、どれだけ昔に遡ってもよいというわけではありません。労働基準法には、残業代を含めた賃金請求権の時効は2年であると定められています。つまり、2年以上前の残業代は、請求しても時効を盾に支払いを拒絶されてしまう可能性があります。

 請求を迷っていると、毎月支払われるべき残業代が消えてしまう可能性がありますので、のんびり構えているというわけにはいきません。

 

5 残業代請求をするときに考えるべきこと

 以上が残業代の一般原則になりますが、残業代の計算は非常に複雑です。また、会社によっては、フレックスタイム制や変形労働時間制といって、このような原則が当てはまらない働き方を採用している会社もあります。ただし、そのような特殊な働かせ方を採用する場合には、法律で厳格な要件が定まっているので、要件を満たしていない会社も多いことを忘れないでください。

 そして、実際に残業代を請求していくためには、予め証拠を集めておくことが重要になりますので、フレックスタイム制等が適用されるかどうかも副m、自分が残業代を請求できるのか、まだどれくらいの金額が請求できるのかよく分からないという場合には、是非、ブラック企業被害対策弁護団にご相談ください。

 サービス残業などといって泣き寝入りをする必要はありません。当弁護団と一緒に、会社にきっちり残業代を支払わせましょう。

 

(以上、ブラック企業被害対策弁護団著「働く人のためのブラック企業被害対策Q&A」69頁~74頁(上田裕弁護士執筆)より引用)